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1980年代前半のことだ。統一教会の創始者である文師は、活動の拠点をすでにアメリカに移していた。
文師が韓国に滞在中の1981年10月、アメリカ政府が文師を脱税容疑の疑いで告訴した。アメリカ政府のもくろみは、「起訴をちらつかせば、奴は、アメリカには永遠に戻って来ないだろう。」であった。しかし、そのもくろみははずれ、文師は直ちにアメリカに戻り、裁判所に出頭したのである。裁判は、一審で有罪判決、その控訴審でも有罪判決。最高裁が上告を棄却したため、控訴審の判決が確定し、1984年7月に連邦刑務所に収監され、一年半の刑についた。
文師が刑務所から出獄した6年後に、カールトン・シャーウッド氏(Carlton Sherwood)が、Inquisition(異端審問)と言う本(サブタイトル=文鮮明師に対する迫害と告発)を著した。シャーウッド氏はピューリッツァー賞も受賞したことのあるジャーナリストである。彼は、統一教会の所有するワシントン・タイムズで仕事をしたこともあるが、その目的は、その組織に近づき、統一教会やその創始者の内部の不正を暴くことにあった。しかし、内部の不正を見つけることができず、そのかわりではないが、司法省との付き合いの中で、文師の脱税裁判の背後にあるアメリカ政府の陰謀に触れ、本に著したのである。
カーター大統領(在職1977-1981)の頃の、文師の日曜日の教会の説教は、教会の宗教的礼拝とは思えぬ、カーター大統領の「人権外交」への痛烈な批判(最大の人権迫害者である共産主義国には目をつむる人権外交への攻撃)だった。アメリカ政府は、文師をどんな理由でもいいからアメリカから追放したかったのである。それで、考え出されたのが、とるに足らない脱税問題だった。
シャーウッド氏によれば、司法省の脱税犯罪の専門家は「起訴理由なし」のところを、ニューヨーク南部地区連邦検事局のある一人の人物がひっくり返したのである。シャーウッド氏は「統一教会、そのリーダー達、信者達は、この国が過去一世紀の間に体験した中で、最もひどい宗教的偏見と人種的敵対感情の犠牲者になってきたし、これからも続くだろう。さらに、私たちアメリカ人が神聖な存在としての議会、裁判所、法執行機関、言論などすべての機関を動かし、そしてアメリカの憲法までも利用し、不当で残忍な方法で、この小さいながら成長している宗教運動を、ある強固な意志によって、消滅させようした。」と結論している。
アメリカで最も権威のあるハーバード大学の憲法学書ローレンス・トライブ教授は、その本の裏表紙の書評欄で「集団ヒステリーに対して、裁判所の保護が最も必要なのは、まさに嫌われている人々だ。このケースの問題は宗教問題だけにとどまらず、むしろマイノリティー(少数者)をいかに迫害から守るかというだ。」と述べている。(トライブ教授は、文師の脱税裁判の控訴審以降の弁護士を務めた。)
宇佐美氏事件の背後になる真相を米本氏のブログで読むたびに、この文師の1980年代の脱税裁判を思い出してしまった。似たところがあるのである。こんな事を言うと、教会のお偉い人たちは、「私たちのお父様(文師を指す)と、ストーカー容疑の宇佐美君を一緒にしないでくれ」と言うかもしれないが、(もしそうなら)そんな固いことを言わず、もっと柔軟に対応できる頭脳を持っていただけると嬉しい。文師の脱税裁判と、宇佐美氏のストーカー事件の似ている点は次の通りである。
★ある意図を持った人(or人々)により仕組まれ、国家権力が動いている事。シャーウッド氏の「異端審問」の中では、具体的に一人の名前(NY連邦検事局)があげられている。米本氏のブログの中でも、具体的に一人の名前(公安部のある刑事)があげられている。
★どちらも通常では、起訴とか逮捕にはならない事件である。
★交換条件の存在(アメリカに戻ってこなければとか、この供述証書にサインすればとか、)
★もくろみ通りには進まなかったこと(文師はアメリカに戻り、宇佐美氏は被疑事実を認めなかった)
違っているところもある。シャーウッド氏が本に著し、アメリカ政府による宗教迫害、人権迫害を暴いたのは、裁判の開始から10年後、文師の刑期も終了した1991年である。宇佐美氏のケースでは、ルポライター米本氏が、3回にわたるブログの記事で、背後の真相を発表したのは、宇佐美氏の不当逮捕された直後の事であり、もちろん、裁判の始まる前の事である。この違いは大きいと思う。異端審問は640ページ、米本氏の3回のレポートは、コメント欄も加えれば、本にしたら100ページくらいの分量になると思う。一方は教会のトップのことで、一方は一信者の事である。ページ数には関係なく、米本氏のレポートの意味はきわめて大きいと思う。
文師の裁判では、アメリカで最も著名な憲法学者が弁護士につき、最高裁上告時には、それまで統一教会に否定的だったキリスト教会や、人権団体、市民団体、議会議員までもが文師を支援し、法廷助言書を提出したにもかかわらず、最高裁への上告が3対5で却下された。
これから始まる宇佐美氏の裁判であるが、厳しいものになるかもしれない。宇佐美氏には、最後まで闘って頂きたい。宇佐美氏には、真相をまとめてくれた米本氏のレポートもあるのだから。
きょうの話の中には、統一教会の創始者(文鮮明師)の話がでてくるが、私は、現在は、統一教会のメンバーではない。18歳から約10年間は活動をしていた。その10年の間には、ホームを脱走して、一人で生活を始めたこともあったし、キャラバン(車)に寝泊まりしながらの珍味売りの途中で逃げして、実家に戻ったこともあった。もう、30年くらい前の事であるが、そんな事はよく覚えている。今から思うと、つい笑い出したくなるような楽しい時でもあった。その頃、ちょうど、文師の脱税裁判が進行中だったので、今回の宇佐美事件の真相を読むたびに、思い出した次第である。
参考URL:
http://yonemoto.blog63.fc2.com/blog-entry-246.html
http://yonemoto.blog63.fc2.com/blog-entry-247.html
http://yonemoto.blog63.fc2.com/blog-entry-248.html
上記すべて米本和広氏によるストーカー事件の真相と深層
http://en.wikipedia.org/wiki/Carlton_Sherwood
参考文献:
Inquisition by Carlton Sherwood (1991) Regency Gateway
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