2011年09月30日

拉致監禁派 国際舞台の終焉(上):宗教ジャーナリスト室生忠氏によるレポート

今年(2011年)6月と7月に宗教・カルト問題に関する国際会議が立て続けに行われた。6月には台湾で、CESNURの国際宗教会議、7月には反カルト団体ICSA主催の国際会議だ。このブログでも、何回かに分けてレポートした。

それらの国際会議について、宗教ジャーナリストの室生忠氏が、「財界にっぽん」9月号(2011年)と10月号(2011年)で、その詳細についてレポートしている。室生氏より全文掲載の許可を頂いたので、まず、9月号全文を紹介させて頂く。

ブログでは、紙面の制限はないので、横書きのブログのデザインに合わせ、「財界にっぽん」の実際のものより、行間が空いていたり、囲んだり、小見出しが追加されたり、文字色が付いたり、写真を加えたりしているが、本文は、室生氏のレポートのままである。


では、以下、室生氏の許可のもと、転載させて頂く。
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財界にっぽん 2011年9月号
特別レポート 日本の人権<シリーズ18>

今夏、2大国際会議で拉致監禁めぐり白熱の論戦
★反カルト機関主催の会議でも日本の強制棄教に憂慮と関心
★初めて触れる両陣営の論戦に、参加の識者らが新鮮な驚き



問: 「強制改宗をしている牧師の所属している教派や宗教団体は、この問題に対して何か公式的な意見を表明していないのか?」

魚谷: 「彼らは、拉致監禁の存在そのものを否定しているため、公式見解は出ていません」
 
問: 「統一教会の他にもエホバの証人が拉致監禁の被害に遭ったそうだが、日本政府はエホバの証人の被害に対しても、何の対処もしなかったのか?」

フェッファーマン: 「エホバの証人は日本政府から何らの対処も受けませんでしたが、重要な民事裁判で(牧師に)勝訴したため、いまは大きな事件は起きていません」

問: 「後藤さんが、解放直後の(アウシュビッツを彷彿とさせる痛々しく痩せ細った)写真の状態から、元にもどるまでどのくらい時間がかかったのか?」

後藤: 「半年くらいかかりました」

問: 「日本のディプログラミング(強制棄教)は、西欧のものと比べて、やり方が洗練されているように思える。日本の文化の影響か?」

魚谷: 「ディプログラマー(脱会牧師、脱会屋)が直接手を下さずに家族にやらせるという点で、確かに洗練されています。西洋では(脱会屋が)直接タッチしたため犯罪になった。恐らく西洋の例から学んだのではないか」

セッション参加者から次々に質問が飛ぶ。プレゼン席には、ダン・フェッファーマン・国際宗教自由連合(ICRF)会長、魚谷俊輔・天宙平和連合(UPF)日本事務次長、後藤徹・全国拉致監禁被害者の会代表、ルーク樋口・米国被害者の会代表の4名。真剣勝負ともいえる、まさに白熱のプレゼンテーションが続く――。

今年の夏、2つの国際会議を舞台に、日本における拉致監禁・強制棄教をめぐる統一教会VS反統一教会の論戦が戦わされ、同時に、プレゼンに参加した世界の多くの識者や宗教社会学者が、この深刻な人権問題についての認識と見解を深めた。


2大国際会議で論戦

2つの国際会議のひとつは、イタリア・トリノ市に本部を置く「CESNUR(新宗教研究センター)」(マッシモ・イントロヴィニエ・代表理事)。もうひとつは、米国フロリダ州に本部を置く「ICSA(国際カルト研究協会)」(マイケル・ランゴン会長)。前者が〃本籍〃のアイリン・バーカー・ロンドン大学社会科学部名誉教授、後者のランゴン会長(心理学者)のように、両方に相互乗り入れの学者も多いが、基本的な色彩は大きく異なる。

CESNURの特徴は、新宗教運動を学問的に調査研究することを目的に、1988年に設立された純粋な学術機関であること。教団の問題点を明らかにする一方、信教の自由を強調して、マインド・コントロール、思想改造、洗脳などの反新宗教的な概念に対しては終始、科学的な根拠を欠くとして批判的なスタンスに立っている。

統一教会側からは、この会議には1988年からICRFが参加して、昨年2010年のトリノ大学会議で行われた後藤氏らのプレゼンは、イントロヴィニエ代表理事に「最も重要なトピックです!」と絶賛された。反統一教会派はこの会議に山口貴士弁護士を初めて派遣。統一教会のプレゼン中に〃荒らし〃的な不規則発言のマナー違反を犯して、世界の識者たちの顰蹙を買ったのは記憶に新しい。(財界にっぽん・2010年11月号参照)

一方、これに対してICSAは元々、新宗教に入った子弟の脱会を目的とする〃父母の会〃を発祥として1979年に設立された、反新宗教運動組織だった。米国社会から拉致監禁を伴う強制棄教が根絶されたいま、CESNUEのような学術機関への脱皮を図っているが、急進的新宗教を敵視することに変わりはなく、「CAN(カルト警戒網)」という米国組織の消滅後は世界最大の〃反カルト機関〃として活動している。

日本の反統一教会派は約6年ほど前からICSAに参加して、いまや毎年のように批判プレゼンを開いては、彼らのホームグラウンド化している。対して統一教会は、米国教会関係者が約10年前から一般参加。後藤監禁事件を機に、日本教会も昨年の米国フォートリー会議から参加し始めたが、正式なプレゼンを行うには至らなかった。

その両国際会議がこのほど相前後して2011年会議を開催して、拉致監禁・強制棄教をめぐる白熱の論戦が繰り広げられたのだ。


2011年6月 - 台湾でCESNUR国際会議

まず、6月21〜23日にかけて「グローバル化した東洋における新宗教」を総合テーマに、CESNUR国際会議が台湾・台北県淡水の真理大学で開かれた。監禁問題は22日のセッションのひとつ、「統一教会‥青年期を迎えた新宗教」(司会者・アイリーン・バーカー博士)のなかで取り上げられ、フェッファーマン、樋口、後藤、魚谷氏が次々にスピーチ。トリノ会議で満座の識者に醜態をさらした、山口弁護士ら反統一派の姿は、懲りてしまったのか一人も見当たらない。

まず監禁被害の体験を報告したのは樋口氏だった。樋口氏は韓国人女性と祝福(合同結婚)を受けたため、両親、親戚らによって精神病院に強制入院させられた。ベッドと便器だけの牢屋のような暗い病室。大浴場の湯船には汚物が浮いているような悲惨で劣悪な環境で3カ月間、薬物を与え続けられた末に(樋口さんは密かに吐き出した)、身柄を親戚の家に移されたという。

「私の心身が衰弱したと判断したのでしょう、両親、親族らに『先生』扱いされて、プロテスタント福音派の神戸ルーテル教会・尾島淳義執事が正体を現しました。約1カ月、執拗で一方的な統一教会の教理批判を受けた続けた末に、隙をみて脱出に成功したのです。

続いて家族による12年5カ月にわたる監禁の末に、文字通り着の身着のままの姿で道路に放擲された後藤氏が報告に立つ。両親を教育して彼を拉致監禁させた首謀者は、松永堡智・日本同盟基督教団・新津福音キリスト教会牧師と宮村峻というプロの脱会屋だった。

「法外な謝礼金を取る、悪質な『監禁ビジネス』です。毎日、教会や教祖の悪口を強制的に聞かされて、バカ、アホ、悪魔』という耳をふさぎたくなる罵声に『死んでしまいたい』と思うほどでした。私は脱出しようと何度も試みましたが、そのたびに暴力的に取り押さえられました」

大きなパワーポイントの画面に大写しになる、南京錠で加工された監禁マンションの玄関チェーン、窓の特別な鍵付きクレセント、牧師や脱会屋の顔、そして極度の栄養失調で骨と皮ばかりになった救助直後の半裸の後藤氏の無残な姿…。
 後藤氏は、捜査令状を取ることすらしなかった警察、加害者を不起訴処分にした検察当局、後藤氏の不服申し立てを却下した検察審査会を厳しく批判して、2011年1月から始まった民事訴訟に賭ける思いを強く表明した。


2011年7月 - スペイン・バルセロナで両者激突

このCESUNUR国際会議を追うかのように、7月7〜9日、スペイン・カタルーニャ地方の中心都市バルセロナで、ICSA国際会議が開催された。バルセロナは、アントニ・ガウディのサグラダ・ファミリア教会などで知られるスペインきっての観光地。「心理操作、カルト団体、社会依存症、および被害」を総タイトルに、世界から約230人の参加者を集めてバルセロナ大学で開かれたこの国際会議で、拉致監禁をテーマに統一教会と反統一教会派が激突した。 

その第一幕は、7月8日午前11:00〜12:30、バルセロナ大学404号室で行われた「日本におけるディプログラミング‥事実か虚構か」と題した分科会。バーカー博士を議長に、CESNUR会議と同じフェッファーマン、後藤、樋口、魚谷氏の陣容だ。議長の「ディプログラミングの問題に関する概説」皮切りにプレゼンの幕が切って落とされ、まず先陣を切ったのがフェッファーマン氏だった。

〈過去において数千名が統一教会を離れたというのは恐らく事実であろう。(中略)彼らの離教が、拉致監禁による強制棄教の結果でないことは、紛れもない事実〉

〈(統一教会は)信者の両親や反統一教会のキリスト教牧師たちを非難する国内的および国際的なキャンペーンを張ることによって、自身の違法行為に対して継続されている論争をかわそうとし始めている〉

フェッファーマン氏は、霊感商法対策被害弁連ホームページのふたつの文章を引用して、その姿勢を厳しく批判した。彼らが拉致監禁の存在自体を完全否定している事実を挙げ、もしそれが真実なら被害者たちが嘘を言っているのか、双方の意見を聞いて判断してほしい。そして、彼らの言う「家族の話し合い」とはいったいいかなる話し合いなのか、真実を知ってほしいと訴えたのだ。

「米国のNCC(キリスト教協議会)はディプログラムの非難決議を発表しており、日本における強制改宗の実態を憂慮する国際的なNGO(宗教および公共政策研究所)の宣言も最近出された。はたして日本における拉致監禁は、憂慮すべき事実なのか、被害弁連の言うような虚構やキャンペーンにすぎないのか、是非、被害者自身の声を聴いてほしい」

統一教会側の意図は明確だった。反統一教会派がICSAで行ってきたバイアスのかかったプレゼン、つまり拉致監禁は全く存在せず、霊感商法や警察の捜査から視線をそらすため「キャンペーン」「プロパカンダ」だとする主張や後藤徹事件での検察審査会の「不起訴相当」判断で「キャンペーン」が破綻したとの印象づけに惑わされず、統一教会被害者の生の証言を聴いて判断してほしい、と訴えることだった。


反カルト会議で、なぜ、統一教会側のプレゼン?

ICSA2011年国際会議で統一教会のプレゼンが実現したのは、画期的な ”事件” だった。もちろんICSA史上初。毎年のように一方的な統一教会攻撃プレゼンを続けてきた反統一陣営にとっては、大きな痛手である。

このプレゼンが実現した契機は、昨年2010年会議の終了後、一般参加していた後藤氏ら一行がランゴンICSA会長、クロップベルト・インフォカルト代表に面会して、2011年国際会議で日本の強制棄教について分科会を開くよう提案したことだった。ランゴン会長らは資料を受け取り、提案を考慮する旨を約束した。

ICSA 2011 Uotani.jpg














<写真:質問に答える魚谷氏>


“保守的”色彩が強いICSAがなぜプレゼン実施を決断したのか。被害弁連のショックは想像に難くないが、ICSAに表立った抵抗や抗議を行った話はない。

「不満だからといって、日本の参加メンバーがICSAの運営に異議を唱える権能はありませんよ。日本における強制棄教のニュースは、深刻で緊急の問題として、世界の宗教研究者の間でますます認識が深まっている。『反カルト』色彩が強いとはいえ、学術機関への脱皮を図るICSAとしても、バイアスなしで当事者双方の主張を聴く必要を感じた結果です」(ICSAウォッチャー)


「青春を返せ」裁判 自由を拘束された原告

「日本における強制改宗」セッションは、樋口、後藤氏の臨場感あふれる実体験報告に続いて、魚谷氏のプレゼン「日本における『青春を返せ』訴訟と強制改宗の関係」に突入していた。

「札幌における『青春を返せ』裁判の原告(脱会信者)総勢21名のうち8名が明確に監禁された事実を認めている。8名は『監禁』という表現は否定したが、部屋に内側から鍵がかけられて自由に出入りだきなかったことを認め、2名が軟禁状態にあったと証言している。物理的な拘束を事実上認める証言が、全体の75%越えていることは特筆に値する。『軟禁』も含めれば、実に86%の原告が、何らかの拘束を受けた状態で脱会を決意したことになる」

魚谷氏は次の3点を挙げて、「青春を返せ」裁判原告の脱会信者に存在した〃自由の拘束〃を立証したのである。
@ 統一教会を訴えた元信者たちの大部分が、脱会する際に物理的な拘束を受けていた。

A 脱会を決意するにあたって、「脱会カウンセラー」と称する第三者の存在と働きかけがあった。

B 「脱会カウンセラー」の目的は、神学的、教義的な批判を通して、統一教会の信仰を捨てさせることにあった。



迫力欠く反対弁護士

この同時間帯に別室では、統一教会批判派で日本脱カルト教会代表理事の西田公昭・立正大学教授、黒田文月・橸山女学園助教授による「日本のカルト集団の元信者への施行による、集団健康度チェックの妥当性の調査」と題する分科会が開かれていたが、ほぼ同数の約20人の参加者で始まった統一教会のセッションは、30名にまで膨らんでいた。

「あなた方の証言に感謝します。大変興味深い内容で、感動しました」
 生の証言を初めて聞いたのか、ある女性参加者が感慨深げにコメントする。
 
「人々を殺したオウム(アレフ)は、日本に依然として存在する。彼らはディプログラミングされないのか。政府からも誰からも迫害されていないように見えるがなぜか?」

「家族は危険なグループから自分の子供を離すためにディプログラミングを行うのだろう。ならば、なぜ、オウムの信者はターゲットにならず、統一教会の信者がターゲットになるのか?」
 旧オウム真理教と統一教会を対比する質問が続く。フェッファーマン氏が答える。

「既成のキリスト教会と統一教会の対立という側面があって、宣教に成功していないキリスト教会のいくつかは、統一教会信者の強制改宗を、信者獲得の手段にしているのです」
 キリスト教系の統一教会とチベット密教系のオウム。"脱会牧師" や "プロの脱会屋" に密教知識に疎いうえ、旧オウムを強制脱会させても、自分の教会への改宗メリットも、脱会ビジネスの利益も期待できないのだ。

「青春を返せ裁判は、アメリカの文化からすればナンセンスだ。ロックに夢中になった若者が、自分の青春をロックコンサートで失ったと、レコード会社を訴えるようなものだ」

「西洋では創価学会の信者も強制棄教された。日本の学会員に被害はないのか?」

「日本の人権団体が拉致監禁問題にタッチしないというのは本当か。どうしてなのか?」

「日本の主要メディアはなぜこの問題に後ろ向きなのか?」


拉致監禁の実態をめぐる白熱の質疑のなか、会場に、ICSA常連で被害弁連の紀藤正樹弁護士の姿がある。  辛うじて、
「魚谷氏らの話は、虚構と誇張に基づいていると思う。私が担当した東京の『青春を返せ』裁判の原告たちの中には、拉致監禁された人はいなかった。後藤氏のケースは、午後からの(我々の)セッションで扱うので、関心のある人は聴きに来てほしい」
 とPRしたが、語調の迫力がどこか軽い印象を否めない。


ICSAのメンバーが、これほど前向きに日本の強制棄教問題に関心を寄せ、憂慮する姿勢を見せたのは予想外ですらあった。それはある意味、従来の反統一教会陣営による一方的でバイアスのかかった報告ばかり聞かされた参加者たちが始めて聞かされた「別の側面」に対して示した新鮮な驚きだったと言えるだろう。

そして、統一教会VS反統一教会の第2幕はこの日午後の分科会、「政府、弁護士、市民、被害者が論争のあるグループ、特に統一教会の問題に如何に立ち向かってきたか」を舞台にさらに過激に繰り広げられたのである(以下、次回)
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Reprinted with Permission of Mr. Tadashi Murou


★宗教ジャーナリスト 室生忠氏について:
 「宗教・信教の擁護」という基本姿勢で、大手メディアが語らない宗教現象、一般には伝えられることの少ない宗教事情などを伝えている。ウェブサイト「室生忠の宗教ジャーナル」主宰。


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posted by 管理人:Yoshi at 20:55| Comment(2) | TrackBack(0) | 宗教/カルトに関する会議等 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本の国際感覚

<「日本の人権団体が拉致監禁問題にタッチしないというのは本当か。どうしてなのか?」
「日本の主要メディアはなぜこの問題に後ろ向きなのか?」>

海外の方が疑問に思うのも無理ないですね。
いびつですよ、日本人の感覚は。

まあ、日本の人権団体はそもそも力があまりありませんけどね。アムネスティ日本に拉致監禁問題で問い合わせをしましたが、なしのつぶてでした。

Posted by みんな at 2011年10月07日 08:21
みんなさん、

お久しぶりです。と、いうか、みんなさんは、よく書き込んでくれているのに、僕が返事してない事が多くて・・・ すみません。

> アムネスティ日本に拉致監禁問題で問い合わせをしましたが、
> なしのつぶてでした。

また、根気よくやってみて下さい。小さな行動で、何かが始まるということもあるかもですよ。

私の方は、アムネスティーの本部の方に、投書してみようと思っています。
Posted by Yoshi at 2011年10月07日 12:45
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